2012年4月7日土曜日

家電-コラム-藤本健のソーラーリポート-ソーラーフロンティアが持つ世界最大規模の太陽電池生産工場とは


年間の生産量900MW、世界最大規模の太陽電池生産工場

 現在、国内で最大量の太陽電池生産ができる工場が宮崎県にあるというのをご存知だろうか? 実は国内最大どころか、実質上、単一工場としては世界最大規模であり、年間の生産量が900MWと昨年の国内需要にほぼ匹敵するものが生産できる設備となっている。これは日本のメーカーであるソーラーフロンティアの宮崎第3工場で、CIS太陽電池の生産設備。今年2月から稼動をはじめたばかりのものだが、先日プレス向けに内部が公開され、それを見学するとともに、CIS太陽電池の特性などについて話を聞いてきたので紹介しよう。

 これまで太陽電池といえば単結晶シリコンや多結晶シリコン、またアモルファスシリコンなど、シリコンを使ったものが大半であった。実際、筆者の自宅屋根に設置しているものも多結晶シリコンのものであるが、今回取材したのはシリコンを一切使わないCISという太陽電池で、ソーラーフロンティア株式会社が開発し、生産をしているものだ。

 聞き慣れない社名だが、同社は昭和シェル石油の100%子会社であり、昨年までは昭和シェルソーラーという社名で展開していた。「何で石油会社が太陽電池?」と疑問に思う方もいるだろうが、次世代のエネルギー開発ということで、シェル石油との合併前の昭和石油の時代、1978年から太陽電池の研究開発を開始し、1993年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの受託を受けてCISに取り組むなど、太陽電池に長い期間取り組んできたメーカーでもあるのだ。

 同社が生産しているCIS太陽電池のCISは銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)の頭文字をとったもので、これらの材料を使った化合物系の薄膜太陽電池を意味する。CIGSと表現することもあるが、これはガリウム(Ga)が加わったもので、実質的には同じもの。実際、ソーラーフロンティアのCIS太陽電池にもガリウムが入っているのだ。当初はガリウムなしのCISでスタートしていたため、そのままその呼称が今でも用いられているとのこと。

 国内においてCIS/CIGSに取り組んでいるのは、ソーラーフロンティアとホンダソルテックの2社。昨年まで、生産量的には両社とも小規模であったが、ソーラーフロンティアが宮崎にある第1工場(20MW/年)、第2工場(60MW/年)に続いて、今年900MW/年という大規模な第3工場を稼動させたことにより、状況は大きく変わった。

 ソーラーフロンティアの執行役員・国内営業本部長の小山征弘氏は「当社は以前から1,000億円の設備投資で世界最大級の太陽電池工場を作ると宣言していたのですが、業界内では、そんなこと不可能だと笑われていました。でも、それを実現し今年2月から生産を開始し、7月からはフル生産体制に入ります」と話す。


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 1,000億円の投資で大規模な工場ができてしまった背景には秘密がある。実は、この工場、もともとは日立のプラズマディスプレイパネルを生産していたところだったのだが、生産が止まって休眠中だったこの工場をまるごと買い取り、300人の従業員も受け入れる形でCISパネル工場へと転換させたのだ。

 もっとも900MWといわれても、どの程度の規模なのか、なかなか想像もつかないのだが、EPIA(European Photovoltaic Industry Association)の資料によると、2010年の日本国内需要が1,000MW。ソーラーフロンティアの第1/2/3工場の生産分をあわせれば、ほぼそれに匹敵するものが生産できることになる。ちなみに、世界の需要は2010年で16.6GWと、日本の16.6倍だ。ソーラーフロンティアでは日本向けに30%の目標で出荷し、40%をヨーロッパ、米国などの海外へ出していくという。

性能はシリコン系より上? 朝夕の光も効率よく吸収して発電

 ソーラーフロンティアが大きな生産能力を持っていることは分かったが、気になるのは従来のシリコン系の太陽電池と比較しての性能的な違いや価格的な違い、特徴などについてだ。先日、宮崎ソーラーウェイを取材した際、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、CISの3つの太陽電池を1年間設置して比較した結果、CISが一番いい結果がでたので、それを採用したという記事を書いた。

 この1つの事例だけですべてを判断するのは難しいが、似た実験をNEDOの山梨県 北杜市にあるメガソーラープロジェクト、北杜サイトでも行なっている。この中にある化合物というのがソーラーフロンティアおよびホンダソルテックのCIS/CIGSの太陽電池を示しているのだが、確かに年間を通じて非常にいい結果を出していることが分かる。

 特に12月から3月にかけての冬場では他を大きく引き離す結果になっているようだ。でも、どうして、こんな好成績が得られるのだろうか?そこにはさまざまな理由があるという。

 「太陽光の波長成分にはさまざまなものが入っています。とくに朝と夕方は波長の長い成分が多くなるのですが、結晶シリコンの太陽電池の場合、長い波長ではあまり発電することができません。それに対し、CIS太陽電池の場合、朝夕の光も効率よく吸収して発電できるため、いい結果になるのです」と小山氏は話す

 確かに筆者の家で発電モニターを見ていても、朝や夕方は発電量が少ない。見かけ上はかなり日が当たっているように思えるのに出力があまり出ないのはなぜだろう……と疑問に思っていたが、こうした波長が原因だったのかもしれない。また冬場に強いという結果も、太陽の昇る高さが低く、光の屈折の点から朝夕と同様に長い波長の光が多くなっているのが原因なのだろう。


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 また影に強いというのもCIS太陽電池の大きな特徴だ。結晶シリコン系の太陽電池モジュールは、その中に太陽電池セルが並んでいて、それらが直列で接続されている。そのため、1つでも発電しないセルがあると、モジュール全体の出力が絶たれてしまうという欠点を持っている。

 まったく屋根に影がかからないと思っていても、南側に電柱があったり、電線があるというケースは少なくない。見かけ上非常に小さい影なので、ほとんど気にしないものだが、実はこの小さな影が大きな問題を起こしてしまう可能性がある。

 それに対しCIS太陽電池の場合、確かに影の影響は受けるが、影の面積分だけ出力が減るというシンプルな構造となっている。影の面積と出力の関係をグラフに示すとその違いがハッキリと分かる(08:資料提供ソーラーフロンティア)。先ほどのNEDOの実証結果に影の影響があったとはあまり考えにくいが、実際に屋根に設置した際には、これによって大きな差が出る可能性もありそうだ。

 また、CIS太陽電池のパネルは、結晶シリコン系のものと明らかに違っている。多結晶シリコンの場合は、やや青み掛かったキラキラ素材だし、単結晶の場合は深い紺色で角が欠けた正方形のようなセルがいっぱい並んでいるという形状だ。

 一方、CISの場合、あまり模様的なものはない。よく見ると、細い筋状になっているが、遠目には真っ黒であり、フレームの色も黒くしているため、屋根に載せた際は、かなりスッキリしたシックなデザインになる。実際、2007年のグッドデザイン賞・特別賞エコロジーデザイン賞も受賞している。そのため、見た目の良さからCIS太陽電池を選ぶ人も少なくないようだ。

太陽の下で光を浴びると発電効率が上がる

 気になる価格だが、kWあたりの単価としてみる限り、現状のおいては結晶シリコン系の太陽電池とほとんど差はない。というのも、国からの補助金制度において、今年は「1kWあたり60万円以下で購入すること」が条件となっており、各社とも60万円以下に抑えているからで、極端な差が出にくいのだ。そんな中、CIS太陽電池にはちょっと不思議な現象がある。

 それは、実際導入した製品の規格上の出力以上の出力が得られるというものだ。たとえば3kWのシステムを導入すると、3.3kW程度のシステムとして動作するというのである。なんとも妙な話ではあるが、実はこのこと自体もCISの特徴だというのだ。


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 小山氏は「CIS太陽電池は、実際に太陽の下で光を浴びると発電効率が上がるという特性を持っています。日光に当てて数時間で5%程度、さらに10日から2週間かけて徐々に10%程度まで伸びていき、そこで安定します」と話す。どれだけ伸びるかはロットによっても異なるため、必ず10%とまではいえないようだが、導入するユーザーにとっては非常に嬉しい特徴であることは間違いない。

24時間365日稼動 作業のほとんどはロボットが

 さて、いよいよ工場の内部を紹介しよう。撮影は指定場所以外禁止とはなっていたものの、多くのメーカーでは、工場内部までを見せることはあまりないので、それだけ自信を持っているということの表れなのかもしれない。さすが、世界最大というだけあって、とにかく広い工場だ。

 敷地面積的には400,000平方m、建物面積でも158,000平方mとのこと。中を歩いていても、規模が大きすぎてどこを歩いているのか分からなくなるほど。製造プロセスにしたがって、順に歩いていったのだが、私のようなド素人でも、シリコン系太陽電池と製造工程がまったく異なることはよくわかる。

 シリコン系の場合、半導体チップと同様にシリコンウェハを元に太陽電池セルを作り、それを並べて太陽電池モジュールとしていく。セル工場とモジュール工場が別れているケースも少なくない。それに対し、CIS太陽電池はセルとモジュールというような区別はなく、一気にモジュールというか太陽電池パネルを作っていくのだ。実際製造工程を比較すると、CISはシリコン系に比べて1/3少ない工程で作り上げることができるとのことだ。

 その工程のスタート地点で用意されていたのは、最終的なパネルになる大きさそのもののガラス板。これにいくつかの膜を吹き付けるように重ねていったり、焼き込んでいくという工程を経て太陽電池になっていくようだ。化学の話は私もよく理解できなかったが、確かに製造工程そのものは、それほど複雑ではなさそうだった。またガラス板が最終製品になるまでにかかる時間は約24時間。人員は交代制で、工場は24時間365日稼動するそうだ。

 工場内を見ていて思ったのは、まったくといっていいほど人がいないこと。何百人もの従業員がいるそうだが、広いからなのか、ほとんど人影も見えず、ロボットが黙々と作業を行なっている。人を見かけたのは、最後の工程での仕上がりチェック。ここだけは人が2人組みで行なっているようだった。フル生産の状態だと、1日あたり、約16,000枚のパネルができるとのことだ。


 この工場で生産しているのは出力が130W、140W、145W、150Wの4種類のパネル。ただ、それぞれを作り分けているというわけではなく、まったく同じように作った結果、最後に光のフラッシュを当てて測定した出力結果からどのタイプなのかを振り分けるようになっているのだ。また、今後は155W、160Wとさらに高いパネルの生産を可能にしていきたいとのことである。

 もう1つ、おやっ? と感じたのは、工場見学をする際、靴を履き替えた程度で、中に入れてしまったこと。太陽電池工場ではないが、以前半導体の工場に入った際は、クリーンルームになっていて、専用の白衣のようなものを着たり、帽子をかぶったり、エアーシャワーのようなものを浴びたりして、中に入った覚えがある。それに比較して、簡単に入れたのだ。このこともCIS太陽電池が製造しやすいものであることを示しており、今後まだまだコストダウンが計れる余地があるという。

将来有望な太陽電池

 以上、ソーラーフロンティアのCIS太陽電池およびその工場について見てきたが、いかがだっただろうか? 筆者もCIS太陽電池自体は以前から知ってはいたし、4、5年前には厚木にある当時の昭和シェルソーラーの研究所に見学に行なったこともあったが、今回いろいろと話を聞いて、現在かなり有望な太陽電池になっていることを実感した。

 気になったのは、国内の住宅用の販売のための販売店や施工業者をどう充実させていくか、という点。これについては電気店系、工務店系、量販店などの代理店網を展開するとともに、新築住宅用にはハウスメーカーとの提携を進めているという。もう1つ気になったのがCISのうちのI=インジウムはレアメタルであり、枯渇が心配されている点だ。

 これについては、当面問題はないとのことだったが、インジウムに依存しない太陽電池である、CZTS太陽電池というものを米IBMと共同開発しているという。こちらは銅(Cu),亜鉛(Zn),スズ(Sn,英語でtin),硫黄(S),セレン(Se)を材料としており、レアメタルを一切使わないとのこと。まだ発電効率などの面で、発展途上とのことだが、今後に期待が持てそうだ。



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